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『永い言い訳』 [本]


『永い言い訳』  西川美和 著


映画「ゆれる」「ディア・ドクター」などを手がけた
監督による長編小説。
本作もすでに映画化が決定している。


小説家の津村啓こと衣笠幸夫は、
妻の夏子をバスの事故で失った。
ところが夏子の死に際して悲しみを感じることはなく、
傷ついた夫を演じるばかりだった。
そんな幸夫は、
夏子とともに事故に遭って亡くなった
大宮ゆきの家族に出会い、
ふれあうなかで徐々に変わってゆく。

小説家として成功するまでの期間、支えてくれた妻を裏切っていた。
さらには、葬式の際に涙を流すこともなかった。
そんな描写から、幸夫の冷淡な性質は明らかだ。
ところが幸夫は自ら、まだ幼い子供を抱えて困っている
大宮一家のために手助けをすることを提案する。
子供たちは当然ながら幸夫になつかず、
幸夫自身も子供たちの扱いに戸惑う。
しかし不器用なコミュニケーションをとり続けるうちに
いつしか子供たちへの愛情を感じるようになり、果ては
他者の介入に嫉妬するようにさえなるのである。

妻や編集者、大宮家の人々など、
幸夫だけでなく周囲の人の視点から語られることで、
彼らの関係や状況が立体的に浮かび上がってくる。
そうした点は、映像を手がける著者ならではだろうか。

幸夫の心の揺れ、変化するプロセスが
どことなく冷やかな、淡々とした筆致でリアルに描き出されている。
当初は好もしく思えなかった幸夫の性質が和らいでくるにつれ、
次第に共感を覚えてくる。
つねに一定の距離をもって冷静に描かれているが、
その背後には、どんな人であれ肯定し、
包み込むような温かさが感じられるのだ。

人の感情は他人に分かるものなどではなく、
一人ひとりのリアリティの上に成り立つ。
身近な人を失った全ての人が
等しくそのときに悲しさを持ち得るか。
状況は人それぞれ違うのが当たり前で、
感情の持ち方も表し方もその人による。
だけれど、その中心にある悲しみや孤独に寄り添うことで
同じ景色をみることができるのではないだろうか。

妻の死に向き合った幸夫は、
これからどんな小説を書くのだろう。
思わず、その後を想像したくなる物語だ。

永い言い訳

永い言い訳

  • 作者: 西川 美和
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/02/25
  • メディア: 単行本



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