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『さいごの色街 飛田』 [本]

『さいごの色街 飛田』  井上理津子 著


飛田のことを教えてくれたのは、
とある男友達で、興味があって調べて
実際に行ったと言っていた。
それが、かれこれ2、3年ほど前のことだ。
そのころ刊行されたのが本書の親本だった。
読みそびれているうちに文庫化されて手に取ったのだが、
補記が付されていたので、文庫で読んで良かったと思う。

本書は大阪の飛田に
現在唯一残っている遊郭の真実に迫る
濃厚なルポルタージュだ。
女性ライターが書いたことで、話題になった。

著者は何度か飛田に足を運ぶうちに興味を惹かれ、
本格的に取材をすることになったという。
12年の長きにわたる取材はまず、
飛田の経験者に話を聞くことから始まった。
しかし、場所が場所だけに
気軽に話をしてくれる人はなかなか見つからない。
それでも知人、友人を伝って探しだした人たちの口からは
さほど実のある話は引き出せなかった。
というわけで、単身、飛田へ乗り込み、
喫茶店や居酒屋の店主に聞き込みをし、
そこで得た手がかりをもとに取材を試みていくと、
思いもかけぬ人物と巡り合った。

親が料亭(いわゆる遊郭)を経営していたという原田さん。
いまは小さな居酒屋の亭主だが、もとは大金を動かしていたという。
もともと、料亭として使っていた昔の建物を見せてくれた。
残しておきたい、と語ったその建物はたいそう立派なもので、
中には開かずの間もあったのだ。

取材を進めるうちに、はじめはいい顔をしなかった
組合の人たちも、資料を提供してくれるなど
協力してくれるようになり、知り合いもできた。
思ったほど怖い人物は出てこないのだが、
体当たりでストレートな取材をつづける著者の取材姿勢に
感心すると同時にハラハラするのは否めない。
関西人ならではのバイタリティのなせる技か。
度胸の良さに恐れ入る。

そうしたなかで見えてきた飛田の成り立ち、変遷が
明らかになるにつれ、
その存在が善なのか悪なのか分からなくなってきた。
昔からある原始的な商売だということは
分かっていても、売春を正面から肯定する気にはなれない。
かといって、商売自体が違法であることが分かっていても、
つづけることしかできない人たちの
人生や事情を否定することもできない。
需要があるからこそ、現在まで残っている事実の重みを
あらためて知らされる。
その外観が昭和の情緒を感じさせる独特な美しさを放つから、
残っているというわけではないのだ。

著者自身も、結論にたどり着いてはいない。
誰しも同じような思いを抱くのではないだろうか。
今までこうした日本の暗部をきちんと記したルポルタージュは
それほどなかったのではないかと思う。
歴史の闇に葬り去られる事象のなかに、
連綿とつづく人々の営みがあった。
現在でも彼女らを取り巻く事情はそれほど変わらない。
貧困、借金、DV……。
下層社会を支えるのは、いつでもこうした商売なのではないか。
飛田で働く、とある“おばちゃん”は、
幸福度ゼロと言ったという。
彼女たちの日々の仕事の先にあるものは何だろうか。
昔も今も変わることなく光が見えないのだとしたら、
とてもせつなくやるせない。

さいごの色街 飛田 (新潮文庫)

さいごの色街 飛田 (新潮文庫)

  • 作者: 井上 理津子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/01/28
  • メディア: 文庫



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コメント 2

うつぼ

現在も遊郭として残っているところがあると聞いてびっくりですが、
昔吉行淳之介が赤線を肯定しているのを読んで、やはりこういうのって
あるのを否定しづらいのかなって思っていました。
この世に必要されないものはないのかなと思ったりしますが、この手のものは
肯定しづらい自分もいます。。。飛田のことは全く知りませんでしたが、
またもやlucksun姐さんの教えてもらいました。読んでみます。。。
by うつぼ (2015-06-14 21:37) 

lucksun

>うつぼ姐さま
わたしも現存していると知った時、本当に驚いたんです。
いまでも同じような商売はいろいろありますけど、
遊郭は過去の遺物だと思っていました。
吉行さんは赤線を肯定していたんですね。
うーむ……。
読後、かなりフクザツな気持ちになったのですが、
知ることができて良かったとも思いました。
ぜひ読んでみてください。
by lucksun (2015-06-19 23:54) 

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