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「アウトサイダー・アート入門」 [本]

「アウトサイダー・アート入門」  椹木野衣 著


アウトサイダー・アートを知ったのは
恥ずかしながらここ2~3年のことで、
初めて観たときは、そこに何が表されているのか分からずとも
揺るぎない存在感を放つことにただ圧倒されてしまった。
その後、興味を持ちはじめていろいろ調べていたところ、
今年の3月に本書が刊行された。

アウトサイダー・アートとアール・ブリュットは
同じものを指すが、著者は意図的に
“アウトサイダー・アート”という言葉を用いる。
それがつまり、本書の主題とするところである。

アール・ブリュットは無垢の芸術という意味であるため、
文教政策に都合のいい言葉だが、
対してアウトサイダー・アートはいわゆる“外道”で、
犯罪者なども含まれるのだと著者は言う。
芸術は純粋なものではないし、
むしろ悪意や暗い思いから
生まれてくるのだという話を聞き、
近頃アール・ブリュットがにわかに話題になっている
理由がようやくわかった。

本書で取り上げられるのは、美術の専門教育を
受けていない、あるいは知的障害などを持つ作家たちである。
ヘンリー・ダーガー、フェルディナン・シュヴァル、
渡辺金蔵、田中一村、山下清など、
有名無名問わず、欧米と日本からバランスよく紹介されるが、
個人的には初めて知る名前が多かった。

彼らはおしなべて、肉親や近しい人の死、自然災害、貧困など、
なかには壮絶といえるほどの苦境や孤独を経験している。
そして、その経験があったからこそ芸術に向いたのだ。
さらには、孤絶のなかからしか芸術は生まれないと、著者は言う。
また、そうした意味においてもすべての芸術は
“アウトサイダー・アート”と言えるのだ、と。

なかでも最も強烈なのは、大本教をひらいた出口なおである。
貧困や肉親との別離など、さまざまな試練の後、
座敷牢に閉じ込められ、飢餓状態にあったときに
託宣が降り、お筆先を行ったという。

ぎりぎりまで追いつめられたなかから生まれたという
力強い文字は衝撃的だ。

また、六本木ヒルズに置かれているクモみたいな
オブジェの作者であるルイーズ・ブルジョワの場合は、
正規の美術教育を受け、世間的にも高い評価を得ている
“インサイダー”ではあるが、
複雑な家庭環境に育ち、深い闇のなかから
芸術を生み出したことによって、アウトサイダーとみなされる。

アウトサイダーたちの“作品”は、そもそも
人に見せるために、あるいは芸術性を追求するために
生み出されたものではない。
彼らの本能の赴くままの魂の発露の結果であることから、
いわば日記のようなものではないかと思う。
それをたまたま発見した人がいたため世に出たのであって、
発見されなければ誰に知られることもなく、
彼らの死とともに闇に葬り去られたかもしれないのだ。
ということは、世の中に知られざる
アウトサイダー・アーティストは
あまた存在するだろう。
ただ、見いだされることがなく、私たちが知らないだけなのだ。

************************

本書の刊行に合わせて、著者の椹木野衣氏と
アーティスト会田誠氏のトークイベントが開かれた。
[5月31日(土) 池袋コミュニティカレッジ]

会田さんは、本書に登場する人物がみな別離や孤独など、
さまざまな試練を経験していることをひいて、
子供のころから絵が巧くて美術系の大学に進み、
家族が健在で、しかもモテたりする、いわば“リア充”では
芸術家になれないのかと思い、読むのがつらかったと
自嘲交じりに語った。
慎重に言葉を選びながら、
素直に、ときにユーモアを交える語り口が
とてもチャーミングだ。

一方、椹木さんは分かりやい言葉で
アウトサイダー・アートをひもときつつ、
興味深い話をしてくれた。
子供が生まれてから、芸術のみかたが変わったというのだ。
刻々と変わりゆく子供は生命そのものである。
同じように、変わり続けるプロセスのような
アートはないのだろうか、と思ったのだそうだ。

モダニズムは“just now”、つまり
終わりがなく、完成することなどない。
生命=アートとすれば、誰もがアーティストになりうるのだと。

ところでトークイベントの終盤、
小笠原沖を震源とする大きな地震が起きた。
少し中断したが、変わらない口調で淡々と話し続ける
椹木さんはどことなく面白かった。
「地震も生命のあらわれだ」と。
なるほど、芸術とは永続的なものということだろうか。


単なるウオッチャーの私が芸術に求めるものは
基本的には日常からの解放と好奇心なのだと思うけれど、
彼らの作品に惹かれる私もどこか、
アウトサイダー的なのかもしれない。

椹木さんは、アウトサイダー・アーティストはみな
後天的な芸術家であり、
後天性とは、だれにでも起こりうることだと言った。

まったく無垢でいられる人なんて滅多にいられるものではない。
だから、作る側だけでなくて、
観る側の私たちにも芸術が必要なのではないか。
ふたりの言葉は示唆に富んでいて、
芸術への新たな視点を与えてくれた。
今後、芸術作品にふれるときには、
今までより一歩踏み込んだみかたができるかもしれない。

アウトサイダー・アート入門 (幻冬舎新書)

アウトサイダー・アート入門 (幻冬舎新書)

  • 作者: 椹木 野衣
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2015/03/25
  • メディア: 新書



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