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「茨木のり子展」 [アート]


「茨木のり子展」
4月19日(土)~6月29日(日)
世田谷文学館


茨木のり子の名前を知ったのは彼女が亡くなってからで、
没後に出版された『歳月』のレビューを書く仕事が、
彼女を知るきっかけとなった。

『歳月』は、1975年に亡くなった夫、安信に向けて
書いた詩や草稿を、茨木の甥が詩集として刊行したもの。
そのとき初めてふれた彼女の言葉は
いずれも鮮烈で、美しく力強く、いつまでも心に残った。

……と思っていたのだが、
じつのところは初めてではなかったかもしれない。
というのは、妹に茨木のり子の話をしたところ、中学校の美術の先生が
彼女が好きで、作品を紹介してくれたことがあったという。
私も同じ先生に教わっていたので、
どこかの機会でふれたことがあるはずだ、というのだ。
ところが私、恥ずかしながらまったく記憶がない……。

いずれにしろ、私にとっては初めて知ることの多い展覧会だった。
今回は、詩の草稿や創作ノート、
「櫂」同人をはじめとする詩人たちとの書簡、日記やレシピなど
貴重な資料の数々を紹介して茨木の詩作世界をひもとくとともに、
カメラやアクセサリー、めがねや筆記具など愛用の品々も展示し、
そのていねいな暮らしぶりもあわせて紹介する。

「わたしが一番きれいだったとき」
「自分の感受性くらい」「倚りかからず」をはじめとする
詩の生原稿はもちろん、詩人仲間の
谷川俊太郎や川崎洋らとの書簡や日常的なメモにいたるまで、
“書きもの”は思いのほか多く残されている。
そうした些細なものであっても
ラフな筆致ではあるが、まめに書きつづられていて、
日常をていねいに暮らしながら、自分にしか書けない言葉を
模索していた詩人の人柄が存分にうかがえた。

なかでも興味深かったのは、
日記に書きつづられたある日の出来事。
玉子焼きを作るために玉子をかき混ぜているとき、
「小さな渦巻き」のモチーフがふいに立ち現われたと書かれている。
なるほど、彼女は日常の暮らしの中から
創作のきっかけをつかんでいたのだ。
また、夫への小遣いも含め、購入したものをきちんと書きこんでいる
家計簿もまた、意外な一面をみるようで楽しい。
そうした生活の一場面、詩人たちとの交流、韓国語への関心などを
みるほどに、茨木のり子という人物への興味はさらに高まり、
どんどん惹かれていく。

最後のコーナーでは、没後に刊行された『歳月』に収められた
最愛の夫・安信への思いを込めて書かれた詩や草稿を展示する。
白いクロスで覆われた一角は、まるで侵しがたい聖地のよう。
純粋でまっすぐな夫への愛があふれる
ラブレターのような作品群がひっそりと置かれている。
読むほどに茨木の言葉がものすごい勢いで流れ込んできて、
胸がいっぱいになってしまった。


茨木の最大の魅力は、揺るぎない精神とたおやかさ。
どの言葉もまったく古びない。
それどころかますます鮮烈になり、
私たちの前に道を指し示してくれているようだ。
行き先を見失いそうになったとき、
迷いを断ち切れないとき、
わたしはおそらくこれから何度も、
茨木のり子の作品を読み返すことになるだろう。

<世田谷文学館ホームページ>
http://www.setabun.or.jp/index.html


永遠の詩02 茨木のり子

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  • 発売日: 2009/11/30
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茨木のり子の家

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  • 出版社/メーカー: 平凡社
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清冽―詩人茨木のり子の肖像

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  • メディア: 単行本



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