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『ふがいない僕は空を見た』  [本]


『ふがいない僕は空を見た』  窪 美澄 著


各所で何度も絶賛されていて、
いつのまにか頭の隅っこに
こびりついて離れなくなっていたところ、
やはりというか当然のように
「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」(「本の雑誌」1月号)にて
堂々1位を獲得したので、これは読まねば!と勢い込んで
年末駆け込みギリギリの今頃になって読んだのでした。


男子高校生が、川向うのマンションに住む人妻と
コスプレしてセックスをする「ミクマリ」で本書は幕を開ける。
冒頭を読んで、少しばかり腰がひけたが、
読み進むうちに、はじめの衝撃は揺らぎ、
印象はどんどん変わっていった。

母が経営する助産院で育った卓巳は、
友だちに連れて行かれたコミケであんずにナンパされ、いつしか
コスプレしてあんずとのセックスに耽る日々を送っていた。
そんなある日、高校に入ったときから好きだった
松永七菜に告白され、あんずと別れることを決意する。
そして、あんずに別れを告げるのだが、
その後、思わぬ場所で再会し、
あんずのことが気になってしょうがなくなる。
意を決してあんずのマンションを訪れた卓巳に、
あんずは代理出産のためにアメリカへ行くというのだった。

そしてつづく四つの章は、
あんず、松永七菜、卓巳の友人である福田良太、
卓巳の母と語り手を代えてリレーのように語り継がれていく。

変わり映えのしない日常を過ごすかのように見えた
彼女らはしかし、思い通りにいかない現実に直面し、
それでもなんとか生きていかなければいけない憂鬱を抱えている。
ほんのちょっと足元が揺らげばすぐに反対側に落ちてしまう
ギリギリの線を、おぼつかない足取りで歩んでいくような
危うさがあるが、その反面、どこか優しい。
人を裏切ったりだましたりするような
悪意などもちあわせていないような人たちなのだ。

なかでも、卓巳のなんと優しいこと。
あんずと別れた失意のあまり、ひきこもりになってしまった
卓巳のもとに、担任の先生“のっちー”が訪れたとき、
臨月を迎えた彼女のお腹を見て、
のっちー、冷やしたらだめだぞと言ったというのだ。
助産院に育ち、女性のからだと生まれてくる命について
よく知っているせいもあるだろうが、それ以前に
無意識的に、人の心に共感してしまう性質を
もっているのではないかと思わせる。
そんな男子高校生の心情を描く著者の筆力に脱帽する。

セックスの話で始まり、出産の話で終わる構成は、
とてつもなく大きな命の循環を思わせた。
さらには、それぞれの章が一人ひとりのドラマとして完結しながらも、
そのどれもが決して単体ではなく、
必ずどこかで誰かとつながっている絆を感じさせる。

家族、友人、恋人……誰かが見てくれている。
そうした実感が、世の中を生きていくことを
どれほど楽にしてくれるかを、生き生きとした筆致で描く。
どこかしら欠けているけれど、
現状を受け止めて歩もうとする彼らの姿がすがすがしい。
希望を感じさせるラストシーンがとても美しく、
いつまでも心に余韻を残した。

ふがいない僕は空を見た

ふがいない僕は空を見た

  • 作者: 窪 美澄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/07
  • メディア: 単行本



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コメント 2

lucksun

>xml_xslさん

>ameyaさん

nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2010-12-27 00:49) 

lucksun

>+kさん

nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2011-01-06 00:44) 

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