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年末のライブの話 [音楽]


もうそんなタイミングでもないけれど、とりあえず新年のご挨拶を。
あけましておめでとうございます。
本年も変わらぬお付き合いをいただければ幸いでございます。
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多摩川からの初日

さて、久しくブログを更新していないが、その間に
イベントが立て続けにあり、
記事を書く時間などまったくないまま年が明けてしまったのだった。
そして松も明けたいまごろ、年末の話をしようとしている。

12月26日(火)は
スガシカオのライブ@EX THEATER ROPPONGIへ。
ここは初めて行ったけれどきれいで広くて快適なハコだった。
今回のライブは、スガの初アジアツアーの最終公演にあたる。
シンガポール、台湾の公演を大盛況で終えて凱旋した
スガは序盤から高めのテンションで飛ばしていた。

前半は「Party People」「19才」などライブでおなじみの
アップテンポなナンバーを繰り出し、会場の温度をどんどん上げる。
なかには、この日にリリースした
「トワイライト★トワイライト」を披露する場面も。
個人的には、ライブではなかなかやらない「夕立ち」を聴けてうれしかった。

そして中盤では「黄金の月」「アシンメトリー」を
ギター一本を携えてじっくり聴かせる。
ていねいな歌い方と繊細な演奏はスガならでは。
シンと静まり返る会場に深い余韻を残した。

後半はライブのど定番「午後のパレード」から、
アッパーなナンバーがたて続き、
ベースの効いた重いリズムに会場全体が揺れた。

バンマスの坂本竜太(ベース)はもちろん、
ギターのDuran、ドラムのSATOKOは以前にも
参加していたメンバーなのですでに親しみがある。
今回初めてみたコーラスのMayaは一見ミスマッチなようだが、
意外にもバンドによくなじんでいた。
ベテランも若手もその差を感じさせないほど一体化するのが
スガのバンドの特徴だ。
バンマスのおかげもあるだろうが、スガの楽曲、そして人柄が
彼らを絶対的にリードしている証ではないだろうか。

ヒット曲満載の大サービスセットリストは以下の通り。
(ナタリーさんから拝借しました)

01. アイタイ
02. Party People
03. 19才
04. あなたひとりだけ幸せになることは 許されないのよ
05. Real Face
06. はじまりの日
07. トワイライト★トワイライト
08. 夕立ち
09. 夜空ノムコウ
10. 黄金の月
11. アシンメトリー
12. アストライド
13. Progress
14. 午後のパレード
15. NOBODY KNOWS
16. 真夜中の虹
17. 奇跡
18. Re:you
19. コノユビトマレ
<アンコール>
20. 愛と幻想のレスポール
21. 91時91分
22. したくてたまらない

THE LAST (初回限定盤 CD+特典CD)

THE LAST (初回限定盤 CD+特典CD)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2016/01/20
  • メディア: CD



****************

さらに12月28日(木)は幕張メッセで行われた
「COUNT DOWN JAPAN」の初日へ。
いうまでもなく、めあてはスガシカオなのだが、
今回はKICK THE CAN CREWのグレイトなパフォーマンスも見逃せなかった。

KICKに関しては、KREVAのソロになってからのライブは
何度か観ていたが、フルメンバーのライブは初めてだったのだ。
飽きるほど聴いていた彼らの音楽を生で聴ける日が来るとは思わなかった。
バンドにしろラップユニットにしろ
仲のいい人たちを見るのがとても好きで、
ステージ上で言葉少なに密なコミュニケーションが交わされるのを
見るにつけ、うれしくなる。
この人たち、仲いいんだよな。夕暮れまで遊び続ける子供たちみたいで。
MCのツッコミ具合やお互いの程よい距離感などは見ていてたいへん好ましい。
個人的には、「イツナロウバ」「sayonara sayonara」のくだりにグッと来てしまった。

KICK! (通常盤)

KICK! (通常盤)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2017/08/30
  • メディア: CD




スガシカオは2日前と同じメンバーで
ダイジェストのおまつりバージョンを披露した。
2017年を締めくくるラストのライブらしく
声の限りを絞るような熱唱、汗が飛び散るハイテンションのパフォーマンス、
どれをとってもメーターいっぱい振り切れるほどの全力で、
観ているこちらもテンションは当然上がる。
跳んだり踊ったり揺れたりもまれたりして、汗だくの年末だ。

セットリストは以下の通り。
(ロッキンオンさんから拝借しました)

1. 真夜中の虹
2. 奇跡
3. あなたひとりだけ幸せになることは許されないのよ
4. 愛と幻想のレスポール
5. Progress
6. 19才

この日はほかに、
SKY-HI&THE SUPER FLYERS
あゆみくりかまき
ASIAN KUNG-FU GENERATION
を見た。なかでも、あゆみくりかまきは、
ひじょうに完成度の高いパフォーマンスで驚いた。
歌もダンスもキマッていて、ファンののせかたもとても上手だ。
しかも、ファンのノリが独特でめっちゃ面白い。
これは本当に生でしか味わえない。
こういう機会でなければライブを見ることもなかっただろうから、
貴重な体験になった。いや、面白かった。

反抗声明

反抗声明

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SME
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: CD




2017年は4日間開催のため分散されて、そのため
全体的に薄まった印象はある。
私が参加した28日がいちばん見どころが少なかったかもしれない。
それでも充分楽しめたからいいのだけど。
いやしかし、最近の若い人たちが好むバンドは全然ピンとこなかった。
そんなもんだろうとは思うが、少し寂しい心持ちもした年の瀬だった。

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栗原由子さん 日本画展 [アート]

栗原由子 日本画展
―わたしの四季―

竹ノ塚の駅を降りて、ザ・下町といった親し気な雰囲気を醸す商店街を抜け、
住宅街の方面へと向かうと、ひっそりとした日本家屋にたどり着いた。
端正にととのえられた庭園を擁する「昭和の家」は、
昭和14年に建てられた民家であり、国の登録文化財に指定されている。
年月を経ていても隅々に至るまで手入れがされていて古びた感じがなく、
ゆったりとした時間が流れている。
町の喧騒から離れた空間に足を踏み入れると、
栗原由子さんの作品群が温かく出迎えてくれた。

「わたしの四季」と名付けられた作品群は、
例えば山を描くダイナミックなものから庭園に置かれた石に至るまで、
植物や石など自然に材をとっている。
一見して、その色数の多さとスケール感、そして緻密な筆の運びに驚かされる。
栗原さんの作品は主に野菜や樹木など自然をテーマにしたものが多い。
そうした自然の織りなす造形に惹かれるのだそうだ。
また、場所からヒントを得ることもあるのだという。
今回の個展の開催が決まってから描いた作品は、
庭を題材にしたとのこと。
庭は手入れが行き届いていて、それだけで完成された空間であるから、
そのものを描くのではなく、例えば石や松の木など、
視点を変えて一部に注目したのだそう。
そうして完成したのが
今回のメイン作品《Petrichor–ペトリコール–》をはじめとする作品群である。
 
 
山の遠景を描いた作品はそのスケール感がすばらしい。
以前、別の会場で見たときには大作という印象が強かったが、
日本家屋の床の間に置かれると、場にピタリとはまっていて、
その色彩がまわりの環境にしっくりなじむ。
そうして、じっくり見るうちに細部が際立ってくるように感じる。
作品の魅力のみでなく、環境も含めての見方を提示される。
すなわち、絵はどこかに置かれて人に見られて初めて完結するものであり、
所有者や見る人の心理状況や背景によって変化するものではないかという思いがする。

今回の個展で初めて栗原さんの作品を観た人は、
元からその場所にあったものと思うかもしれない。
それほど、日本家屋という背景にごく自然にはまっていた。
床の間や調度も、絵を引き立てる額縁であるかのよう。
別の場所で彼女の作品群を観たことのある私には、
作品自身が飾られる場所を選んだかのように感じられた。

野菜や魚など、身近なものに材を取り、独特の色彩で描き切る。
そうした作品は、遠目で見ても、その魅力すべてにふれることはできないだろう。
というのは、栗原さんの絵の特徴は、緻密に描きこまれたディテイルにあるからだ。
なぜ、山や野菜などがこれほど鮮やかな色彩になるのか、と尋ねてみると、
こういう色に見えるのだと語ってくれた。
色とりどりの絵の具を隙間なく塗り込めた作品を観るにつれ、
しだいに確固とした世界が浮かびあがってくる。
それは例えば野菜やくだもののもつ生命力や、自然が織りなす表情豊かな風景だ。
そうしたものたちを見つめる栗原さんの視線は鋭く、そして優しい。
創作の対象となるものたちへの愛情が画面全体に感じられる。
その美しさをどう表現するか、自分の目に見えるものをどう伝えるか、
おそらく日々、心を砕くのだろう。そうして生まれた作品群を見て、
そのものたちの美しさに初めて気づき、感嘆する。
創作であると同時に、自然の美しさを再発見するきっかけを与えてくれる。
そんな魅力あふれる栗原由子さんの創作の源泉に迫る思いがした。

2年に一度のペースで開く個展に向けて、30点ほどの新作を制作するという。
制作期間の前半は主にスケッチに力を注ぎ、
そこから作品に仕上げるものを選ぶのだそうだ。
毎日描いても追いつかないほど題材はあふれているという。
日常的な制作を通じて、着実に作品を積み上げていきたいと語る栗原さんは、
その視線の先に何を見つめているのか。
これからも生み出され続ける作品をワクワクしながら待っていたい。
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<栗原由子さんホームページ>
http://yuko-kurihara.com/


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直木賞受賞記念 担当編集者たちが語る佐藤正午 [本]

9月11日(月)、三省堂書店神保町本店で行われた
「担当編集者たちが語る佐藤正午」なるイベントに参加した。

佐藤正午の直木賞受賞を記念して、
担当編集者が作家について語るという異例のイベントだ。
先ごろ、佐藤正午は直木賞授賞式を欠席し、
在住地の「佐世保から出ない」ことで話題になった。

彼の読者であれば既知のことであるが、
小説の舞台が東京であろうと海外であろうと、
佐世保から出ずに調査を重ねて、
まるで現地調査を綿密に行ったかのごとく
リアリティあふれる描写をするのが佐藤正午の持ち味なのだ。
ならば、というわけでもなかろうが、
作家が不在のまま編集者たちが語ることで
創作の裏側を探るという試みである。
正午さんはこの日のイベントをもちろん知っていて、
電話で「今日だよね」と話したという。

直木賞受賞作『月の満ち欠け』を担当した岩波書店の坂本政謙さん、
山田風太郎賞受賞作『鳩の撃退法』を担当した稲垣伸寿さんのおふたりが
佐藤正午の創作過程のエピソードや、やりとりなどを開陳した。

裏側の話とはなぜ、かくも面白いのか。
そこに創作に関わる人たちの素の姿が垣間見えるからではないかと思う。
イベントの冒頭で、SNSでぜひ拡散してください、といわれたが、
なかには公表できない話もあり、そのときは
“オフレコ”の札を上げて発言するという洒落た演出もなされた。

自分が手がけた作品が賞を取るというのは、
編集者にとって望外の喜びであることだろう。
わたしは書籍に携わったことがないのでそういう機会は皆無だが、
協力して作り上げた作品が評価されることは
何にも代えがたいのではないかと思う。

稲垣さんは、「佐藤正午は出版社ではなく編集者につく作家」だといった。
いかにも、正午さんらしい。
肩書や年齢で人を見ない、そういう姿勢が作品からもうかがえる。
正午さんのことを語るおふたりはとても楽しそうで、
お互いの仕事を尊重していることがよくわかる。
出版社は異なっても、正午さんを真ん中にした
チームのメンバーという感じを受けた。

作家への愛情と編集者の心意気が感じられる
ほんわかした雰囲気のイベントだった。
こういうイベントを実現できる編集者たちの洒落っ気がいい。


月の満ち欠け

月の満ち欠け

  • 作者: 佐藤 正午
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/04/06
  • メディア: 単行本



鳩の撃退法 上

鳩の撃退法 上

  • 作者: 佐藤 正午
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2014/11/13
  • メディア: 単行本



鳩の撃退法 下

鳩の撃退法 下

  • 作者: 佐藤 正午
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2014/11/13
  • メディア: 単行本



※以下、佐藤正午作品のレビュー(本ブログ)。ご参考まで。
『月の満ち欠け』
『鳩の撃退法』
『身の上話』
『アンダーリポート』
『5』
『彼女について知ることのすべて』
『ありのすさび』
『カップルズ』


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東京JAZZ@NHKホール [音楽]


第16回 東京JAZZ “the HALL”
9月2日(土) NHKホール

ことしは夏らしいことをほとんどしていない。
もくもくと仕事をしていて夏休みもまだとっていない。
唯一の、といってもいいイベントが東京JAZZだった。
バンド仲間のT氏の希望でリー・リトナーの出演回を観に行った。

毎年恒例の東京JAZZは、ことしから渋谷開催になった。
昨年までの有楽町とは、やはり雰囲気が違う。
何しろ年齢層の低い街だから、たいそうにぎやか。
加えて、昨今は海外からの観光客も増えた。すなわち
人口密度が高くて歩きにくくてかなわないなか、
なんと駅前からセンター街を演奏しながらパレードするという
大胆な企画を実行したのである。
買い物客や観光客に囲まれつつ、バンドたちは演奏しながら練り練り歩く。
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どーもくん、うさじいも。彼らはめっちゃ人気者だ。

この日の演目は、
◆H ZETTRIO with special guest 野宮真貴
◆アル・ディ・メオラ
◆リー・リトナーGUITAR SUMMIT
with パット・マルティーノ、デイヴ・グルーシン、
デイヴ・ウェックル、トム・ケネディ

一番手のH ZETTRIOは
以前、東京事変のメンバーだったH是都M、
あるいはヒイズミマサユ機の名で活躍していた
H ZETT Mを中心とするピアノトリオ。
ピアノ、ベース、ドラムスというシンプルな構成で
ドライブ感あふれるキャッチーなメロディーを奏でる。
わたくしH ZETT Mには一方的にお世話になったことがある。
今回同行したT氏と一緒にやっていたバンドで
東京事変の「群青日和」をやったことがあるのだ。
シンプルながら凝ったフレーズもあり、弾いていてとても楽しい曲だった。
そんなわけで主に彼のピアノプレイに注目したが、
若さあふれる元気なプレイスタイルで、
時折スタンディングのまま、ノリよく弾きまくっていた。
渋谷開催ということにかけて、
途中で渋谷系代表(?)の野宮真貴が登場してコラボレーション。
おしゃれな音楽を聴かせてくれた。

PIANO CRAZE[EXCITING FLIGHT 盤]

PIANO CRAZE[EXCITING FLIGHT 盤]

  • アーティスト: H ZETTRIO,H ZETT M
  • 出版社/メーカー: apart.RECORDS
  • 発売日: 2016/09/07
  • メディア: CD




2番手のアル・ディ・メオラはまったく聴いたことがなかった。
T氏は昔聴いたことがあると言っていた。
クロマティック・スケール(半音階)で有名な人らしい。
すなわち、全部の音を弾くということだったが、果たしてまさにその通り。
今回は「ELEGANT GYPSY 40TH ANNIVERSARY ELECTRIC TOUR」とのことだが、
40年たってもまるで変わらず、ガンガン弾きまくっていた。
早い時期にスタイルが確立していて、それをキープしているのだ。
良くも悪くも変わらないってすごいと思う。

エレガント・ジプシー(期間生産限定盤)

エレガント・ジプシー(期間生産限定盤)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2016/04/27
  • メディア: CD




3組目のリー・リトナーはフュージョン界のギター・ヒーロー。
ギター好きな人たちのあこがれの存在だ。
テクニックはもちろん、ていねいに楽しみつつ弾く姿がじつに素敵だ。
鍵盤のデイヴ・グルーシンと奏でるメロディー、
同じくギタリストのパット・マルティーノと呼吸を合わせて生み出す
珠玉の音楽は、体験する価値が存分にある。
今ここでしか聴くことのできない音楽、という思いがした。
ジャズといえばインプロヴィゼーションが多いので当然なのだが、
本当にそのときどきで演奏が変わるため、印象もその都度ちがうものになる。
同じ曲でも、聴くたびに新鮮。だからジャズって面白いのかもしれない。

キャプテン・フィンガーズ(期間生産限定盤)

キャプテン・フィンガーズ(期間生産限定盤)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2016/05/25
  • メディア: CD



プラチナム・ベスト リー・リトナー

プラチナム・ベスト リー・リトナー

  • アーティスト: リー・リトナー
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2013/10/23
  • メディア: CD




ライブ帰り、渋い居酒屋で飲んでいたら
観てきたばかりのH ZETTRIOがテレビに出ていて面白かった。
渋谷開催は成功なんだろうか?
来年はまた有楽町に戻ることになるのかもしれない、とふと思った。

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『月の満ち欠け』 [本]

『月の満ち欠け』 佐藤正午 著

本作は先日、第157回直木賞の候補作にあがった。
選考は7月19日。結果を楽しみにしている。


☆☆追記☆☆
7月19日、なんと、ついに直木賞決定!
この日をずっと待ちわびていました。
朝日新聞デジタルの記事はこちら


佐藤正午の本は出れば必ず読む。
本作もその例に倣い、4月に刊行されてすぐに読み切ったのだが、
今までレビューを書かなかった。それには理由がある。
ひとつには、自分の感想がなかなかまとまらず、
どう書いたらよいのかわからなかった。
まとまったところで文章にしづらいと思っていた。
もうひとつには、本作を読んだ後に『書くインタビュー 3』が
刊行されたので、そちらと合わせて書きたいと思っていたからでもある。
というのは、『月の満ち欠け』を読み解くヒントが
見つかるのではないかと考えていたからだ。
……というのは、本作のレビューを書くつもりでいて
今まで延ばしてしまった、単なる言い訳です。


小山内堅は東京ステーションホテルのカフェで
とある母娘と会った。
るり、と名乗る7歳の娘は小山内のことをよく知っている。
コーヒーはブラックが好み。家族3人でどら焼きを食べたことがある――。
その娘は、かつて小山内の娘の瑠璃だったというのだ。
それは、いったい何を意味するのか。
小山内が妻と娘と一緒に暮らしていた頃に始まり、
長きにわたる過去をひもときつつ、
“るり”をめぐる長い物語が始まる。

著者の作品でいえば『Y』『5』の系譜につながる
超常現象を扱っている。
一つ間違えばファンタジーになりかねない
きわどい題材を、著者ならではの緻密な筆致により、
違和感なく読ませる。一種、不思議な味わいをもつ作品だ。

好きな人に会うために生まれ変わりをつづける彼女の強い思い、
そして思いを遂げるためにとった行動の仔細、
あるいはその周囲にいる人々の反応、交わした会話に至るまで、
一点も漏らすことなく丁寧に、細心の注意を払って、
しかも物語の勢いを損なうことなく書ききっている。
冒頭では突飛な設定に頭の中に疑問符が飛び交うが、
読み進むにつれ、どんな設定も人物も行動も、
なんの違和感もなく思えてくる。
読者を惑わせ、物語にごく自然に引き入れる
巧みさに思わず圧倒されてしまう。
そしてラストでは、一人の人を追い続け、
ようやく思いを遂げた彼女の執念にも似た愛情の深さに胸を打たれた。


一方、後日刊行された『書くインタビュー 3』では、
聞き手の東根ユミとの往復メールを通して、
著者の創作にかける思い、小説作法などが惜しげもなく開陳される。
ときには失礼とも思える質問に、
茶々を入れたりまっとうに答えたり、
その時々に応じた著者らしい回答がたいへん興味深い。
なかでも印象深かったのは、トルストイの
『アンナ・カレーニナ』の一文を引いて、
小説の細部へのこだわり、あるいは細部を描写することにより
際立つ小説の読みどころについて言及するくだりである。
著者の諧謔がいかんなく発揮された文章そのものの味わいをも楽しめる。

本作であらためて著者の仕事の細かさ、見事さにふれ、
小説家もしくは作家という呼び名よりも「小説職人」と呼びたくなった。

近年、新刊を読む比率は減ってきているが、
敬愛する作家の作品を読む機会だけはなくさずにいたい。
ちなみに、ことしも上半期を過ぎようとする現時点では
迷うことなく本作をベストに決めた。

月の満ち欠け

月の満ち欠け

  • 作者: 佐藤 正午
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/04/06
  • メディア: 単行本



書くインタビュー 3 (小学館文庫)

書くインタビュー 3 (小学館文庫)

  • 作者: 佐藤 正午
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2017/05/09
  • メディア: 文庫



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